- 角社長
- 弊社は自社で山林も所有しております。それは、弊社が昭和5年に杉の電柱の製造メーカーとしてスタートしたからです。最近ではエコアコールウッドで「木製ガードレール」を製品化し、福岡県の県道や林道などにご採用いただいておりますが、木製のガードレールは、景観上も大変良いし、また衝突した際も、コンクリート製などと比べ、衝撃の度合いが優しいとの評価を頂いております。このような経緯もあって、日本の山林に関しての深い想いがございます。
ご存知の通り、日本の山が非常に荒廃しております。戦後70年近くたち、使用できる木材が増えてまいりました。ところが現状は丸太の値段が40~50年前とほとんど変わらないので、丸太を山から出すと赤字になってしまいます。間伐した木を、「林地残材」と申して、山に捨ててきてしまう状況です。丸太を取り出すには林道を整備しなければならず、そのための費用がかかる・・・と、悪循環に陥っております。
しかも、木を全て伐採したあとは植林する必要がありますが、再造林率は九州でも30~50%ととても低い状況です。全部切った1/3しか植林出来ていない。このままの再造林率だと日本の山はさらに危うくなっていきます。
そこで当社は間伐材に注目しました。間伐材は30年程度で間引きをしていきます。直径も15~20cm程度の小さな木で、シラタも多い未成熟の木で耐久性も劣るものです。このような間伐材が日本の山にあふれています。これを何とか付加価値をつけて使う必要がある。しかし従来の水溶性保存処理技術では、先ほど先生が懸念された「割れ」が解決できません。また薬剤の溶脱の観点から、長く持たせるという点も問題がございました。
そこで開発したのが「エコアコール」という薬剤です。
「エコアコール」は低分子のフェノールですが、世の中に広く存在する接着材用のフェノールとは異なり、木材を保存させるために、木材に注入させるために開発された特別なフェノールです。その特別なフェノール「エコアコール」を木材の中に加圧注入し、乾燥硬化させたのが、無毒性の製品「エコアコールウッド」です。
国産材を使用した「エコアコールウッド」をお選び頂いた理由はどこにありますか?
- 仙田先生
-
~素材選びは最も大切~
やはり、耐久性です。
実は我々も、たくさん失敗しているのです。いろいろ試行錯誤しております。南洋材は硬くて、ささくれが起きます。
幼稚園や保育園の研究会を研究所で毎週開いて、素材の使い方や問題点などをさまざまな角度から検証しています。その中で、素材選びは最も大切であることを認識しています。
そのような流れで、エコアコールウッドを一番初めに採用させていただいたのは、長谷川君が担当した国営アルプスあづみの公園(長野県)です。厳島神社で使われている点も大きなポイントですね。
- 角社長
- エコアコールウッドの製品化に成功し、実用化したのが平成9年です。エコアコールウッドの製品を世に送り出してから15年が経過していますが、現在腐朽や白蟻の被害の報告は受けておりません。安心して使っていただけると感じております。
特徴としては割れの抑制です。また、無毒性という点です。また、今申し上げた通り15年の実績があるという点です。次々と保存処理木材の製品が開発されていますが、製品自体の耐久性は、試験やテストでの結果だけではなく、実際に世の中で使われた年数により評価され信用されると考えております。
ご使用いただいて、良かったと感じる点はございますか?
- 仙田先生
-
~クレームが少ない。変化の度合いも低い~
(こばと幼稚園やわかば保育園など) クライアントの皆様は毎日エコアコールウッドに接していただいております中で、「クレームが少ない」という点は良かったと思います。
また、木材なので表面の変化はありますが、変化の度合いが低いとも感じています。
ところで、エコアコールウッドの研究開発にはどれぐらいの期間がかかったのですか?
- 角社長
- 足かけ20年以上です。
九州大学の樋口教授(当時)が、平成8年に木材処理用の低分子フェノールを発見されるまでに約20年間を要しています。その後実用化に向けた産官学の共同開発チーム(九州大学林学部、福岡県、九州木材工業)が樋口教授の声掛けで結成されました。そして平成9年に実用化に成功し、その後エコアコールウッドを生産するプラントを弊社の工場に設置したのが平成11年です。
薬剤の効果で腐朽菌や白蟻を殺すような方法での処理技術ではないのが特徴です。また、割れ抑制効果が高いので、割れた部位からの腐朽や白アリの攻撃が抑制できます。
- 仙田先生
- 理論値で90年とは具体的にどういうことですか?
- 角社長
- 国交省のNETISでの審査結果として、素材と比較しての耐久性が93年という理論値がでております。これはNETSのホームページ等でもご覧いただけます。分解されないわけではないですが、その速度が非常に遅いという分析結果がでているためです。
また、最新の試験数値として、フローリング材としての適性を評価していますブリネル硬度の結果も出てまいりました。杉は柔らかい木ですが、エコアコールで処理した杉は、その弱点が是正されるという結果が出ています。床やフローリングの材料としても安心して使用いただけます。
ところで、今後の木造建築の将来像、方向性をどのようにお考えですか?
- 仙田先生
-
~建築界での木材使用は、脚光をあびている。この傾向はまだ続く~
技術的な分野では、我々建築家も1950年代に法的に木材利用が塩漬けにされたのですが、公共建築物木材利用促進法(「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成22年法律第36号))などの後押しもあり木造建築も動き始めた機運があります。
また木構造の分野では、最近日本建築学会 教育賞を受賞された構造技術者の増田一眞さんや、その弟子の日本構造技術者協会賞を受賞した山田憲明さんが注目されていることもあり、建築での木材利用が脚光をあびています。この傾向はまだまだ続くのではないかと感じています。
また、伝統的な木構造や畳の無い住宅で育っている世代がどんどん増えていますが、そうした若い世代に逆に、「和」や「座の生活」、畳、縁側など、木造建築の伝統的な良さが再発見されている、見直されているという感じがします。
大学教育でも、RC造りに関しての授業は多く、木造に関しては不毛の時代がありました。これからは変わってくると思います。また、公共空間においては、木造が使われる傾向は拡大するのではないかとの期待があります。
- 角社長
- そのような環境の中で、木材業界にご期待することはありますか?
- 仙田先生
-
日本は良い製品ができるのですが、法律的に後押しできていない部分もあります。
例えば、非常に透明度の高い建築用フィルムが日本で製造されているにも関わらず、海外で使用されて、日本では防災面で問題があるとされ使用できません。防災という点で我が国は厳しいところがあります。
それは災害の多い国としてやむを得ないところもありますが、学会や木構造や防災の専門家がチームを組み、規制だけでなく、安全面の検討、技術を開発し、法律面からの後押しをする方法の検討を進めていく必要があると感じています。
- 角社長
- また、九州木材工業及びエコアコールウッドにご期待することはございますか?
- 仙田先生
-
スウェーデンやスカンジナビア半島が参考になります。あちらは森林資源がベースになっていて、家具や遊具が発達し、その発展として航空機産業に繋がっています。
日本の産業においても、浜松の例を見ると分かりますが、木曽の森林資源が織機産業を生み、織機産業が自動車産業や楽器産業に繋がりました。そういう点で、森林資源をベースに、木材の特質を使っていろいろな分野にチャレンジし、日本のオリジナルなデザインやアイデアを活かせないかと思います。
需要としては巨大なマーケットのある中国や東南アジアに目を向けても展開すべきだと思います。例えば、中国の遊具には日本の製品はありません。だいたいヨーロッパ製です。隣国に巨大なマーケットがあるのに、もったいないなと思います。日本の産業全体のことを考えた取り組みが必要かと感じます。
- 角社長
- 我々メーカーも努力をして国際競争力を高め、日本の木材を使用した製品を、海外に輸出していかなければいけない時代になってきたと思います。
- 仙田先生
-
スウェーデンなどでは家具に付加価値をつけて開発をしています。
なにしろ、木材は軽い、加工が容易、自分で組み立ても出来る、運搬もしやすいメリットがあります。御社は、遊具もやってみてください。私がデザインします。
- 角社長
- ありがとうございます。
今日は先生とお話させていただき、木との関わりで感性に訴える部分、気持ちが良い点、元気になるという点は、たいへん重要なキーワードだと感じました。
今後ますますIT技術が発展し、世の中が便利になっていけば行くほど、木材と触れる機会を増やしていきたい。そうすることで日本人が持っている木に対するDNAを呼び起こす、そのようなはたらきかけをして行きたいと思いました。弊社はそのために、日本の山で育った木材を使用した建物や外構部材を推奨していきたいと強く思いました。
本日はありがとうございました。
2014年5月27日
株式会社環境デザイン研究所にて
対談者プロフィール
仙田 満(せんだ みつる)
株式会社環境デザイン研究所 会長
1964年 東京工業大学卒。菊竹清訓建築設計事務所へ入所
1968年 環境デザイン研究所を創設
1982年 「こどものあそび環境の構造に関する研究」で東京工業大学より工学博士号を取得
1984年~2012年 琉球大学、名古屋工業大学、東京工業大学、放送大学教授を歴任
2001年~2003年 第47代 日本建築学会会長
2006年~2008年 日本建築家協会会長
東京工業大学名誉教授。こども環境学会代表理事。環境建築家。毎日デザイン賞、
日本造園学会作品賞、日本建築学会作品賞、IOC/IAKSゴールドメダル、
村野藤吾賞、日本建築学会大賞等受賞
代表作品
野中保育園、愛知県児童総合センター、ゆうゆうの森幼保園、港北幼稚園、
国際教養大学、広島新球場
著作
こどもとあそび、幼児のための環境デザイン、環境デザインの方法、
環境デザインの展開、環境デザイン論
エコアコールウッド 使用作品
国営アルプスあづみの公園 (長野県) 平成21年3月竣工 (平成24年第44回中部建築賞受賞)
中軽井沢山荘(長野県)平成21年7月竣工
こばと幼稚園(岐阜県)平成25年11月竣工
舞岡幼稚園(神奈川県)平成26年3月竣工
わかば保育園(富山県)平成27年3月竣工
角 博(すみ ひろし)
九州木材工業株式会社 代表取締役社長
昭和56年3月 福岡県立筑紫丘高校卒
昭和60年3月 早稲田大学教育学部卒
昭和60年4月 東京海上火災保険(株) 入社
平成8年7月 九州木材工業(株) 入社
平成16年1月 九州木材工業(株) 代表取締役社長就任
高校からラグビーをはじめ花園全国大会に出場。
大学でもラグビー部に所属し昭和59年度の主将(旧姓:矢ケ部)を務める。
現在、筑紫丘高校ラグビー部のヘッドコーチとして後進の指導に当たる。
<主な経歴>
日本木材青壮年団体連合会第47代会長
(社)八女青年会議所第43代理事長
八女市教育委員会委員
木づかい運動ステアリングコミッティー委員 等
<主な所属団体>
日本木材防腐工業組合副理事長
八女商工会議所常議員
日本木材加工技術協会九州支部常任理事
九経連林業部会事業WG座長 等
▲