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仙田満先生×角社長対談「こどもたちと木材との空間づくり」

角 博

九州木材工業株式会社
代表取締役社長
(写真左手前)

対談補助:長谷川 一久

株式会社環境デザイン研究所
設計主任
(写真中央)

仙田 満

株式会社環境デザイン研究所
会長
(写真最右)

「こどもたちと木材との空間づくり」

角社長
本日は、「こどもたちと木材との空間づくり」をテーマに、対談をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

仙田先生は木材をふんだんに使用した建物・構造物・外構を数多く設計されていらっしゃいますが、そのきっかけと目的はどういったところにあるのでしょうか?と申しますのは、50年程前に、このまま木材を使い続けると日本の山がハゲ山になってしまうというので国産材を使わない法律が施行され、以後建築業界では木材を使用するケースが激減してしまったと記憶しているのですが。
仙田先生

~菊竹清訓の下での初仕事が木造建築~

私は大学を卒業した1964年に、菊竹清訓先生の事務所に入社いたしました。1965年に「こどもの国」がオープンしましたが、それが最初に取り組んだ仕事でした。森の中にキャビンやプールなどがある建物です。キャビンやプールはコンクリート造りでした。更衣室と浴室棟を設計したのですが、そこを木造にしました。

そこだけ木造にした理由なのですが、工期が短かったという事情もありましたが、そこは人が裸になる場所、つまり、肌が触れたり、素足で過ごしたりする場所なので、木造がふさわしいと直感的に感じたからです。丸太を使った在来工法でしたが、利用者にはたいへん好評でした。

また、私の若いころからのテーマは、建築だけではなく、遊具もあります。最初に手がけた遊具は仙台に今でも残っている45年ほど前のものですが、スチール製です。テレビでも取材を受け、デザイン的には話題になったのですが、スチール製の遊具には問題がありました。遊具は触れるものです。夏は熱く、冬は冷たいのが問題でした。

その頃、西武の堤清二さんより「商業施設のこどもの遊び場に、スウェーデン製の木製の遊具を入れたい」という相談を受けたため、現地に視察に参りました。スウェーデンは木製の家具や遊具を世界に売ろうという国家戦略をもつ国だと感心しました。木は鉄に比べ、温かみがある。逆に、真夏に熱くなりにくい。このような体験もあり、私自身、2番目の遊具は木製で計画いたしました。

~木製の遊具は、こどもの動きが違うという実感がある~

木製の遊具で問題なのは、耐久性です。10年はともかく、5年でダメになってしまうことが、たいへん懸念事項でした。しかしスチール製とは違い、木製の遊具は熱くならないし、衝突したとき優しいということもありますが、こどもの動きが違うというのが実感としてありました。

~木の空間は、利用者の意欲を掻き立てる~

どうしたら学習意欲、運動意欲を掻き立てる環境を造り出せるのか、というのが私の長年の研究テーマ「遊環構造理論」です。40歳の時に、ドクター論文としてまとめました。利用者の意欲を喚起する空間の構造の素材として、木材、木の空間はとても適しているのではないかと考えています。
角社長
人の肌に触れる部分をコンクリートではなく木を使用されるというのはとても納得できますし、またそれを直ぐ実行に移される先生にたいへん感銘を受けました。

また、先生のお言葉のなかで、幼稚園などにおいては「意欲をわかせる」「元気を育てる」という点を大切にされていると感じます。先生は木造建築物の中でも、特にこどもに関する施設、幼稚園や保育所、学校、遊び場や公園などを全国に数多く設計されていらっしゃいます。その理由は何でしょうか?

また、こどもの成長や感性に、木材の使用はどのような影響を受けるとお考えでしょうか?
仙田先生

~幼少期の記憶が多くの気付きを育む~

私の生家は小さな木造の伝統的な民家でした。幼少期にそこに住んだ記憶の影響が大きいと思います。畳は柔らかいマットですし、(童謡「背比べ」の唄にもあるように)柱の傷は成長の軌跡ですね。梁や長押(なげし)はぶら下がって遊ぶための道具であり、屋根裏や縁の下は秘密基地でもありました。

こどもにとって住まいは遊び場そのものでした。また風邪をひいて寝ていると、天井板の染みが動物に見えたりすることもありました。廊下は板貼りでしたが、工作好きだった私は傷だらけにして母親によく叱られたものです。

そういう環境の中で、多くの気付きを育んだのではないかと思っています。縁側から見る小さな庭の景色や、蝶が舞う様子などを、小さなこどもなりに発見する、探索する、そうした空間であったことが生家の記憶としてあります。

~木造の建物は、心と体を開放させる~

学校や劇場、体育館など大きな建物も設計しているのですが、原点はこどものための空間です。こどもたちが「思わず探索してみたい」「行ってみたい」「面白かった」というような気持ちを掻き立てるような空間作りが、私自身の使命と感じています。

その中で、出来れば木材で造っていきたいと考えています。それは変化があるから、そして優しいからです。

こどもたちがコンクリートの保育室では思いきり走り回れません。ぶつかればこどもの方が傷ついてしまいます。木造の建物でもぶつかれば痛いけれど、コンクリートのような痛さはありません。思い切って心と体を開放させるという意味では、木造の建物のもつ役割はとても大きいのではないかと思っています。
角社長
木の家に住み、木材に触れ、戯れた環境と空間が、仙田先生の感性を育み建築家の第一人者となられたのだと感じました。

貴社は園舎建築におけるサポート体制、補助金申請や資金繰り、園づくりからメンテナンスまでをコーディネートされ、充実されていいらっしゃいますが、その狙いはどこにあるのでしょうか?
仙田先生

毎日ここに来ることが楽しい、そう感じられる場であることが大切

その理由は2つあります。
まず1つ目は、1968年に事務所を立ち上げたのですが、その当時から単なる建築設計事務所ではなくて、外構、街づくり、広場、サイン、インテリア、遊具、つまり環境デザインに関する全てをお手伝いしたいと考えていたからです。

こうしたこどもたちの施設を作っていくためにはお金が問題になるので、補助金優遇措置の利用などもお話させていただく。幼稚園も保育園も経営体ですので、資金面での助言など知る限り、お話しさせていただいているということです。

2つ目は、大事なことなのですが、建物が出来た後が大切な問題だと考えています。出来たらおしまいではない。建物が出来た後が、実際に評価される第一歩だと考えています。こどもたちにとっては生活の場であり、保育士さんたちにとっては職場なので、ここに毎日来ることが楽しい、そう感じられる場であることはとても重要です。

私どもがお手伝いした園舎に関しては(実際に現地訪問し)アフターフォローをしております。私は大学で30年教師をやっており、こどもたちがどう行動しているかを研究しました。私自身が研究することがすごく好きなのです。得られた成果をまた実際の園舎の計画やデザインに反映させていく、それがおもしろい、楽しい仕事なのです。

建物が造られた後に、私たちが考えたとおりにこどもたちが行動してくれているか、保育士さんたちがどう動いているかなど、何か問題がないかを検証させていただいております。

若い時期に商業施設、セゾングループで仕事をさせていただいたのはとても良かったと思っています。 少ないお金でいかに効果的にお客様に来ていただけるか、何回もリピートして来て頂けるか、そういう空間にするにはどうしたらよいかを学びました。
角社長
木材は有機物であるため、虫に食べられたり、腐朽菌にやられたり、紫外線によるダメージもあります。鉄やコンクリートに比べてナーバスな素材です。そのような中で、木材に対するメンテナンスや長持ちさせるためのお考えなどはございますか?
仙田先生

~こどものための木造施設の問題は「割れ」~

こどもの施設で木材を使用する際の経年変化で一番問題だと思っているのは、「割れ」です。こどもは活発に動きますので、ささくれで傷を負う場合があります。

特に、斜めに使うケースです。斜めに使うと、こどもは必ず(滑り台のように)滑るんですね。滑った時にささくれに刺さってしまうことがあり、問題になった時期がありました。

また、こどもの皮膚は0歳から3歳までの間に変化します。目では見えない微細な部分ですが、3歳のこどもでは平気でも0歳児ではダメージを受けることなどもあります。これを解決するには素材をしっかり選び、表面をコーティングしカバーするしかありません。

~設計での基本として、耐久性の高い木材を使用~

設計で気をつけている基本的な点は、紫外線や雨などにさらされる、外部の壁やデッキ材で使用する際は、御社の製品のような耐久性の高い木材を使用することにしています。

また、暴露する部分に関しては設計上可能な限り屋根をかけるなど、ディテールで処理をしています。お施主様には、木造だからといって「10年、15年で交換してください」とはなかなか言えませんので、そうならないような造り方や素材を模索しております。