近年、人間が生活を豊かにしようと、石油や石炭などの化石燃料をたくさん掘り起こして使用しています。そのため、地中に眠っていた二酸化炭素が大量に放出され、大気中に増えすぎている事が問題となっています。特に石炭は、二酸化炭素を吸って成長した木々が地中に埋れて、長い年月をかけてできた資源です。言いかえれば、空気中の二酸化炭素を吸って地中に閉じ込めたものなのです。
それが人間の活動によって大量に消費されてしまって、大気中の二酸化炭素が増え、環境のバランスが崩れてきています。二酸化炭素は熱を吸収しやすい性質を持つために地球温暖化ガスと呼ばれており、大気中にたくさん存在すると地球温暖化を促進させてしまいます。
現在、木材は二酸化炭素を閉じ込めて、固定しておくことができる材料として注目されています。その理由は、二酸化炭素を吸って大きくなった木を切って木材として利用し、木を切った分は苗木を植えることで再び木が育つ、というように再生が可能な資源だからです。
金属製、コンクリート製の材料は石油を消費し、言わば二酸化炭素を出して作りますが、木材は二酸化炭素を取り込んで育った木から作ります。これほど環境にやさしい資源は他にはなく、これを積極的に使っていくことは地球温暖化防止に貢献することができるのです。
木材を扱っていく上で気をつけなければならないことは、木は生物ゆえの性質を持っているということです。木材は設置する環境によっては様々な要因を受けて早く腐れてしまい、長期間使用することができない場合があります。
腐れてしまう現象は木材の成分が分解しているということであり、分解されると固定化されていた炭素は二酸化炭素となって空気中へと出て行ってしまいます。
また、炭素を固定するためだけでなく、材料として長く使うためにも、木材を長期間利用する必要があります。そこで、木材の耐久性を上げるために薬剤を注入する保存処理技術があります。この技術によって木材は厳しい環境の中でも長く使用できるようになりました。しかし、保存処理していても木材が腐る条件がそろえば、たちまち耐久性が落ちてしまいます。
木材は生物の体であるため、金属やプラスチック、コンクリートなどの材料と比べると構成が大きく異なります。また、木の一本一本でも、育っていく過程で気候や場所などの環境条件によって影響を受け、細胞の大きさや形、構成の仕方に違いが出てきます。人間が一人一人個性を持っているのと同じ様に、木材も生物であるために材料の一本一本が個性を持っているのです。以下、その生物ゆえの特徴を述べていきます。
木材は様々な組織が集まって構成されており、この組織の中には、木が自ら栄養を作り出すための光合成に必要な水分を根から葉まで運ぶ通導組織と呼ばれる水の通り道が存在します。
木を伐採後の段階では、通導組織の中は多くの水が含まれており、この水は自由水と結合水という二種の形式で混在しています。
自由水は組織を構成する細胞の中や細胞壁の隙間などにあるため、組織内を比較的自由に動くことができます。一方、結合水は自由水とは違って、木材の細胞壁などの構成成分と微弱に結びついており、木材の中を動きづらくなっている水分です。
木材を扱う際に知っておかなければならないことは、水分の存在がカビや木材を腐らせる菌を繁殖させる要因となることです(【3.木材が劣化する要因】に後述)。木材は生物なので、自然の摂理に従うと菌に分解されてしまうことは当然なのです。プラスチックやコンクリートなどの材料と違って、自然に帰っていくことができるのが木材の魅力の一つでもあります。しかし、木材としては長く利用しなければならないため、その対策(【4.木材の保存処理】に後述)が求められます。
木材に含まれる水分を管理することは木材を扱う上ではとても重要な項目であり、木材が含んでいる水分の量を含水率として数値化します。含水率の計算方法はJIS(日本工業規格)によって定義されており、次式で表されます。
全乾状態の木材の重量とは木材中に水分が全く存在していない時の重量です。JIS「木材の試験方法」では、試験体を換気の良好な100~105℃の乾燥機の中で乾燥させて、恒量に達した段階の木材の重さを全乾状態の木材として求めます。
木材の含水率はある一定の温度、湿度に放置しておくと、水分の出入りが平衡状態に達することがあり、それを平衡含水率と呼んでいます。平均含水率は温湿度の変化にともなって、地区、季節や気候、時間帯によって変わりますが、屋外での平衡含水率の全国年平均は約15%とされています。
木材を切った後、大気中に放置しておくと、中に含まれている水分はだんだんと失われていきます。 これを乾燥といい、木材にとって重要な項目の一つです。
未乾燥の状態は【2.1木材と水分】の項目で述べたような結合水と自由水を含んだ状態、これは生材と呼ばれている状態です。この生材を乾燥させていくと、水分は自由水から先に失われていき、自由水がなくなると次に結合水が失われていきます。
自由水がなくなり、結合水が飽和している状態を「繊維飽和点」、大気中に長期間放置しておくと水分が湿度とバランスを保って一定となる状態を「気乾材」、結合水もなくなり水分が完全に失われた状態を「全乾材」と呼んでいます。
乾燥が木材において重要だと言われる理由は、水分が失われてしまうことで木材が歪んだり、縮んだりして寸法が変わってしまうためです。また、水分が失われすぎると乾燥割れといって、木材が割れてしまう場合もあります。含まれる水分のうち自由水が失われるだけであるなら、木材に歪みは生じません。
しかし、木材成分にくっついている結合水が失われると、歪みが生じます。つまり、繊維飽和点以上の水分があれば、木材の寸法は狂いにくく、繊維飽和点以下の水分だと歪みや乾燥割れが生じやすくなるということです。ふつう、生材を乾燥すると幅、厚さがともに縮小します。
歪み方は木材の木目の具合により異なってきます。木材の断面で、年輪の中心部分を芯(または髄)と呼び、芯を含む製材品を芯持ち材と呼んでいます。特に芯持ち材は乾燥したときに、芯に向かって割れる傾向があり、使用上注意が必要です。
丸太をいちょう切りにした例を下の図に示します。芯から樹皮に伸びる方向を半径(放射)方向、年輪の円周に接する線の方向を接線方向(円周方向)と呼んでおり、これらの方向は乾燥による収縮量はそれぞれで異なってきます。接線方向の線分ABと半径方向の線分OC、それらの線分の交点をPとします。
乾燥前では、直角だった丸太は、乾燥後に水分を失って直角ではなくなり、結果、直線だった線分ABは曲線になります。半径方向の線分OCも長さが乾燥後は短くなっていますが、線分OPと線分CPの比率は前後で変化しません。収縮率で表すなら、半径方向は5%ほど、接線方向は10%ほどになります。このように接線方向の収縮率が大きいため、丸太は乾燥後、収縮量や方向の違いにより、割れが発生するのです。